【番外編】未来を耕すデザイン:吉沼から始まる共感資本社会

つくばには、二つの世界がある。〜この町の構造と、私が感じてきた距離のこと〜

みなさん、こんにちは。LITANOVA(リタノバ)主宰の竹内利枝です。

第1回・第2回と、LITANOVAが生まれた理由と、吉沼という場所を選んだ経緯をお話ししてきました。
今回は連載の番外編として、少し立ち止まって、「つくばという町そのものの構造」について書いてみようと思います。

活動の背景として、ずっと自分の中にあった違和感の話です。

「研究学園都市」という言葉では、説明しきれないもの

つくばという町は、よく「研究学園都市」と呼ばれます。
でも、実際にここで暮らしてみると、その言葉だけではどうしても説明しきれないものがある、とずっと感じてきました。

1960年代、国の政策によって研究機関が集まり、この町は科学の拠点としてつくられました。
そして2005年、つくばエクスプレスの開通とともに、研究学園・みどりの・万博記念公園エリアに新しい住宅地と商業施設が生まれ、「もうひとつのつくば」が一気に広がっていきました。

横浜から嫁いできて、何も知らずに、夫の実家があったつくば駅のそばに住み始めました。
当時働いていたデザイン事務所は中心地から離れた周辺市街地にあって、毎日その間を行き来していました。
そのうちに、じわじわと感じてきたことがあります。

この町には、「二つの世界」がある。

新しくつくられた町と、もともとあった町。
どちらも同じつくばの中にあるのに、生活圏も、関わる人も、見ている風景も、少しずつ違う。
言葉にはうまくならないけれど、確かにそこには距離のようなものがある。
その違和感が、ずっと胸のどこかに引っかかっていました。

かつての吉沼に、あったもの

たとえば、吉沼。

いまは静かな地に見えるこの場所に、かつては商店街があり、映画館も2つあり、旅館もあり、周辺から人が集まってくる中心地でした。
生活に必要なものが揃って、人が行き交って、関係が自然に生まれていく場所。

その記憶は、いまも消えていません。
吉沼祇園祭では、町内ごとに役割を持ちながら子どもから大人までが一緒に関わり、神輿が通りを巡っていく。
それは、「人が集まる場所」だったこの町の、延長線上にある風景だと思います。

そして、こんな話も。つくばが開発される以前、万博よりもずっと前のこと。
いまはにぎわっている中心地が、当時は荒れ地で「追い剥ぎにあうから行くな」と言われていたのだと。それがいまや、立場が逆転している。

笑いながら話してくれるのだけれど、その言葉の奥に、なんとも言えない寂しさがある。
昔はここに人が集まっていたのに、という記憶と誇りが、静かに宙に浮いているような感じ。
それを感じるたびに、私の中の違和感は、少しずつ言葉になっていきました。

R8という視点

吉沼だけではありません。
つくばの周辺には、それぞれ異なる成り立ちと歴史を持つ市街地が点在しています。

北条、小田、大曽根、上郷、栄、谷田部、高見原、そして吉沼。

この8つのエリアは「R8(リージョンエイト)」と呼ばれています。
第2回でも少し触れましたが、2018年につくば市周辺市街地振興課とともに行った勉強会をきっかけに、各地区で活性化協議会が立ち上がりました。
それは、この「新しい町との距離」という問いが、吉沼だけの話ではなく、つくば市全体の構造的な課題だということの表れでもあると思っています。

子どもたちに、何を手渡すか

新しい町には、新しく移り住んできた人たちの暮らしがあって、便利で快適な環境がある。
それはとても大切な価値だし、否定したいわけじゃない。

ただ、このまま二つの町が交わらないまま進んでいったとき、子どもたちはどんな地域を受け取ることになるんだろう、とずっと考えてきました。

関係が薄く、選択肢が限られた社会のまま手渡していいのか。
それとも、もう少し違うあり方をつくれるのか。

ゆるやかに、つないでいく

今年の春、私は吉沼に移住します。

いま吉沼でやっていることは、かつてのように戻そうとしているわけでも、無理に賑わいをつくろうとしているわけでもありません。
この町にもともとあった「人が集まる機能」を、いまの時代に合わせて、無理のない形で編み直していくこと。

マルシェや朝市、子どもたちの学びの場、地域の人が集まれる拠点。
そういう場を通して、新しい町で暮らす人ともともとここで暮らしてきた人が、自然に交わるきっかけをつくっていきたい。

そしていつかは、吉沼だけでなく、R8のそれぞれの地域でも、「こういう関わり方もある」と感じられる選択肢が生まれていけばいいと思っています。

つくばの中にある、この少し不思議な構造を、分断のままにしておくんじゃなくて、ゆるやかにつないでいく。

「こういう暮らし方もある」を、次の世代に手渡していけたら。

次回第3回は【What】として、LITANOVAの6つのアプローチについてお話しします。

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